新リース会計基準の導入による企業への影響

2024年9月13日に、企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準34号「リースに関する会計基準」及び企業会計基準適用指針33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下「新リース基準等」)を公表しました。新リース基準等は、原則として、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。

新リース基準等は会計処理だけでなく、業務プロセスや契約管理方法、システムなど、企業によっては大きな影響を与え、その対応に時間を要します。以下では、新リース基準等による影響について説明します。

1. 財務的な影響

新リース基準等の適用により原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を認識することになります。そのため、これまでオペレーティング・リース取引に区分され支出時にリース料等として費用処理されてきたリースや、そもそも契約の法形式がリース契約ではないものの、新リース基準等に照らして判断した場合には実質的にリースとして識別される取引についても今後は使用権資産とリース負債を認識することになります。

具体的には、以下のような影響があります。

  • 貸借対照表
    使用権資産及びリース負債の認識によって資産及び負債の認識額が増加し、これらを用いた財務指標、例えば、総資産利益率(ROA)、自己資本利益率(ROE)、総資本回転率、負債比率などに影響をもたらします。
    負債額の増加によっては、子会社が会社法上の大会社に該当し、会社法監査の対象になる可能性があります。また、
  • 損益計算書
    これまでリース料等(営業費用)として処理・表示されていたものが減価償却費(営業費用)又は利息費用(営業外費用)として処理・表示される結果、営業利益や営業利益に関する財務指標にも影響をもたらします。
  • キャッシュフロー計算書
    従来のリース料は営業活動によるキャッシュフローとして計上されていましたが、新基準ではリースの元本返済部分が財務活動によるキャッシュフローに分類され、利息費用部分は営業活動によるキャッシュフローに残ります。そのため、リースの元本返済が営業キャッシュフローから除かれるため、営業キャッシュフローが増加するとともに、リース負債の元本返済が財務キャッシュフローとして計上されるため、財務キャッシュフローが減少します。

2. 業務プロセスに与える影響

新リース基準の適用により、原則としてすべてのリースについて使用権資産とリース負債を認識する必要があります。そのため、関連する契約を適切に管理し、それがリースに該当するかどうか、またリースに該当する場合、リース期間を何年とするかを適切に判断することが求められます。これに対応するためには、リースに関連する契約や情報を適切に収集・管理し、正確な判断を下すための仕組み作りが必要です。このプロセスは業務全体にも影響を及ぼします。

新たな会計処理に必要な情報を適切に収集・管理し、会計上の論点を正確に処理するための業務プロセスが求められます。特に、新リース基準の適用に際しては、契約の検討が重要となるため、リースに該当する可能性のある契約の管理(契約情報の収集)が不十分な場合、契約管理方法の見直しが必要です。

また、収集した情報をもとに、会計処理を適切に実行するための業務プロセスを構築する必要があります。さらに、上場企業でJ-SOXの評価範囲に含まれる場合、これらの評価に対応するために、業務記述書、フロー・チャート、リスク・コントロール・マトリックス(RCM)といった「3点セット」の見直しも求められます。

3. システムに与える影響

新リース基準の適用に際しては、契約をはじめとするさまざまな情報を適切かつ継続的に管理する必要があります。たとえば、従来はオペレーティング・リース取引とされていた不動産賃貸借契約においても、リース期間を判断する際に、更新オプションや解約オプションなどの契約条件を正確に把握・管理することが求められます。また、付随費用や前払リース料の存在により、資産(使用権資産)と負債(リース負債)の当初認識額が異なる可能性があるため、経済的インセンティブの変化によってリース期間を見直し、当初認識後の帳簿価額を修正する必要が生じる場合もあります。このように、管理する契約件数や情報量が多くなる場合には、システムの活用を検討する価値があります。

既にリース資産を管理するために固定資産管理システムを導入している企業では、システムの再構築や更新が必要になることも考えられます。

新リース基準の強制適用期限まで基準公表から約2年半しかなく、適用前に予算などを策定する必要があることを考えると、実質的な準備期間はさらに短いといえます。手戻りを避けて最短で進めるためには、全体のスケジュールと実施すべきタスクを明確に把握しておくことが重要です。

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